中小企業では中途採用で求人する機会も多く、従来は履歴書や職務経歴書をもとに、その人の経歴・実績を判断基準にして選考する「スキル採用」の傾向が強く見られました。
しかし近年は「何ができるか(スキル)よりも、どんな考え方で動くか(マインド)」を優先する、相性重視の採用(=価値観採用)へのシフトが進んできています。
スキル採用の落とし穴
そもそも、これまでスキルが重視されてきたのは、即戦力としての期待はもちろんこと、実績に裏付けされた能力、教育・研修にかかる手間やコストの少なさなどが挙げられます。これらのメリットは「足りないピースを今すぐ埋める」という中途採用において理にかなっています。
しかし、採用して実際に現場で働いてもらうと、思ったように能力が発揮できなかったり、成果が上げられないというケースが少なくありません。
これにはいくつか理由があり、例えば
- 本人の実力というより、前職のビジネスモデルが良かった
- 優秀な部下のおかげで成果が出ていた
- 特定の状況下でのみ発揮されるスキルで、職場が変わると機能しない
などがあります。
こういったギャップには本人も苦しみ、せっかく採用したのにすぐに離職してしまうことも珍しくありません。
価値観採用は中小企業こそマッチする
近年は技術革新のスピードが速く、「過去の実績」がすぐに陳腐化してしまうことが増えてきました。かつてのように一度身につけたスキルだけで食べ続けていくのは難しくなっているのです。
ですから時代や環境が変わっても、変化を楽しんだり、新しいことを学び続けるマインドを持っている人の方が、長期的に企業に貢献できると考えられるようになってきました。そこで注目されたのが価値観に主眼をおいて判断する価値観採用なのです。
特に少人数で組織される中小企業においては、価値観を重視する理由が多くあります。例えば、
■社長(経営者)との距離が近い
中小企業では、経営者の理念やビジョンがそのまま日々の業務や意思決定に直結します。そしてこの想いは従業員にダイレクトに伝わります。このような環境においては、「スキルはあるけれど、会社の理念に冷めている人」よりも「スキルは未熟だが、会社の理念に猛烈に共感している人」の方が、業務へのモチベーションや会社へのエンゲージメント(愛着)が高まりやすく、長期的に見ると圧倒的に活躍します。
■一人の影響力が大きい
大企業であれば価値観の合わない人がいても組織の大きさで吸収・相殺できることがありますが、小さな組織ではたった一人の方向性の違いが、組織全体の空気変えてしまうことがあります。一方でポジティブな影響として、全員が同じ方向を向いている時の瞬間的な爆発力は、中小企業ならではの武器です。
■不確実性への対応
小規模企業はビジネスモデルが未完成だったり、市場環境によって急な方向転換に迫られたりすることがありますが、価値観が合うメンバーで構成されていると、こういった変化にも対応しやすく、粘り強く取り組むことができます。
■早期離職の防止
組織が小さいほど、たった一人の離職が全体に与える影響は大きくなります。多くの調査において、離職理由の第1位は「職場の人間関係」で、メンタル不調による離職も元をたどれば人間関係だったりします。逆に職場の人間関係が良好であると、他の不満(給与や業務内容など)をカバーするほどの強力な引き止め効果を持っています。心理学では「類似性の法則」と呼ばれますが、自分と似た考え方や価値観を持つ人に対しては本能的に好意や安心感を抱き、人間関係が良好に保たれる傾向にあります。
面接で価値観を引き出す質問例
それでは採用面接において、応募者の価値観はどのようにして確認すると良いでしょうか。
ここでは相手の価値観を引き出す質問例をいくつか挙げます。
①過去の意思決定の基準を知る
質問例: これまでの仕事や経験の中で、大きな決断を下した時のことを教えてください。その際、何を一番の判断基準にしましたか?
理由:価値観は迷いやリスクの伴う大きな決断をするときに強く現れます。この質問では「何を重んじて判断したのか」を確認することができます。
②困難への向き合い方を知る
質問例:目標達成が難しい状況の中では、どのように行動しますか(しましたか?)それはなぜですか?
理由:プレッシャーやストレスのかかる状況では、冷静な判断ができないことがあります。この質問では非常時における本質的な行動特性(ごまかしのきかない素の姿)を確認することができます。
③違和感への対処を知る
質問例:これまでの会社で「これは自分には合わない」「絶対おかしい」と感じた社風やルールはありましたか?その時どう対処しましたか?
理由:何をポジティブに捉えるかと同じくらい、何をネガティブに捉えるかを知ることは重要で、この質問ではまさにその人の価値観を知ることができます。さらに単なる不満で終わるのか、改善に動くのかで自律性を確認することができます。
④成功体験の定義を知る
質問例:あなたがこれまでの人生で最も誇りに思っている成果は何ですか?なぜそれがあなたにとって「誇り」なのですか?
理由:この質問ではあえて「人生」という広いくくりで成果を聞いています。仕事での成果に限定しないことで、本質的なモチベーションの源泉がどこにあるのかを知ることができます。
相手の「素」を知る
価値観採用では面接において、例えば趣味の話や休日の過ごし方など、仕事とは直接関係のないことを質問してみるのも有効です。いえ、むしろ「するべき」と言ってもいいかも知れません。
応募者にとって採用面接は今後の人生を左右する一大イベントですから、仕事の話(志望動機や職務経歴)というのは、事前に作り込んできていることが多いです。また質問に対しても「これを言ったら落とされるかな?」や「この会社にとっての正解は何だ?」と、常に緊張と警戒の中で考えながら発言しています。こういった状況で応募者の本心や素の姿を探ることは難しいです。
しかし趣味などの話になると、一気に緊張感がほぐれリラックスして素の自分が出やすくなります。なぜなら趣味の話には正解も不正解もなく、成果を求められるわけでもないため「評価する側・される側」という関係性から解放され、「ひとりの人間同士」の会話となるためです。
このようにいわばガードが下がった状態での会話でこそ、その人の素の選択基準や行動原理が見えてくるのです。その趣味を始めたきっかけやこだわり、一番楽しい瞬間などを深掘りすることで、より一層その人の人間性を知ることができます。
ひとつ注意して欲しいのは、いくら価値観を探るためといっても、思想・信条や宗教に関することなど、採用面接で聞いてはいけないNG質問があります。これらは面接を超えて人権侵害に当たる可能性があるためです。詳しくは厚生労働省が発表している公式ガイドラインでご確認下さい。
まとめ
価値観採用が進んできた背景には、「スキルは教育や実務で高めることができるが、その人が培ってきた価値観・倫理観を入社後に会社が変えることは極めて難しい」ということに、多くの会社が気づき始めたことが挙げられます。 もちろん価値観採用も万能ではなく、これだけでうまくいくわけでもないですが、面接ではぜひ応募者の根底にある価値観から現れる「その人らしさ」を引き出して、自社の理念とマッチするかを一つの判断材料に加えてみて下さい。