新年度がスタートし、半月が経過しました。4月に新卒や中途で入社した新入社員の皆様も、少しずつ職場の雰囲気に慣れてきた頃ではないでしょうか。

一方で、現場の教育担当者や人事担当者の皆様からは、「面接時の印象と少し違うかもしれない」「業務の習得スピードが想定より遅く、指導に苦慮している」といったリアルな声が上がり始めるのも、ちょうどこの時期です。

企業には多くの場合、新入社員の適性を見極めるための「試用期間」が設けられています。しかし、「試用期間中であれば、いつでも簡単に解雇できる」「適性がないから本採用を見送ろう」と安易に考えてしまうのは非常に危険です。

今回は、企業と労働者のミスマッチを防ぎ、無用な労務トラブルを回避するための「試用期間」の正しい法的知識と、実務上の注意点について解説します。

試用期間の法的な位置づけとは?

試用期間とは、企業が採用した労働者の勤務態度、能力、技能などを観察し、自社の従業員としての適格性を評価・判断するための期間です。

ここで最も重要なのは、試用期間であっても「すでに労働契約は成立している」という事実です。法的には「解約権留保付労働契約」と呼ばれ、「もしどうしても自社の社員として不適格であると判断される合理的な理由があれば、労働契約を解約(解雇)できる権利を企業側が留保している」状態を指します。

すでに労働契約が成立している以上、試用期間中だからといって社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険への加入を遅らせることは法律上認められません。「本採用になってから加入させる」という運用は違法であり、入社した初日から加入義務が発生しますので、手続きの抜け漏れがないようご注意ください。

また、試用期間の長さについて法律上の明確な上限はありません。しかし、労働者の地位を著しく不安定にする期間であるため、長すぎる試用期間は公序良俗に反し無効とされる可能性があります。一般的には「3ヶ月〜6ヶ月」程度で設定している企業が多く、長くても1年が限度と考えられています。

「試用期間中だから簡単に解雇できる」は誤り!

経営者の方から「試用期間中なのだから、うちの会社に合わないと思えば辞めてもらえるよね?」というご相談をいただくことが少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。

試用期間中の本採用見送り(拒否)は、法的には「解雇」に該当します。労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(解雇権濫用法理)。これは試用期間中の本採用拒否の場合にも適用されます。

もちろん、通常の解雇に比べれば、企業側に解約権が留保されている分、ある程度広い範囲で本採用拒否が認められる傾向にはあります(有名な最高裁判例として「三菱樹脂事件」があります)。しかし、それでも「少し仕事が遅い」「期待していた能力に達していない」「なんとなく社風に合わない」といった抽象的で軽微な理由だけでは、不当解雇とみなされるリスクが非常に高いのが実情です。

本採用拒否が認められやすいケース

  • 採用判断を左右するほどの重大な経歴詐称が発覚した
  • 正当な理由のない無断欠勤や遅刻を繰り返し、何度指導しても改善されない
  • 業務命令に対する重大な違反や、協調性の著しい欠如があり、業務に多大な支障をきたす

本採用拒否が認められにくいケース

  • 期待していた営業成績を上げられない
  • 指導に対する物覚えが少し悪い、作業スピードが遅い
  • 一時的な体調不良による数日の欠勤

とくに「能力不足」を理由とする場合、企業側が「労働者の能力を引き出すために、十分な教育や指導を尽くしたか」が労働審判や裁判で厳しく問われることになります。

トラブルを防ぐための実務対応ポイント

では、試用期間中の労務トラブルを防ぐために、企業はどのような対応をとるべきでしょうか。3つの重要な実務ポイントを解説します。

指導・教育の徹底と客観的記録の保存

もし能力不足や勤務態度を理由に本採用を見送る場合、企業側は「十分な指導・教育を行ったが、それでも改善の見込みがなかった」ことを客観的証拠によって証明しなければなりません。口頭で注意しただけでは、後で「言った・言わない」の水掛け論になります。日報、面談の議事録、メール・チャットでの業務指導の履歴、改善指導書など、「いつ・誰が・どのような指導を行い、本人がどう反応し、結果どうだったのか」を、必ず文書やデータとして詳細に記録に残す体制を整えてください。

就業規則への明確な記載

試用期間に関するルールは、就業規則に明確に定めておく必要があります。

  • 試用期間の長さ(例:入社日から3ヶ月とする)
  • 試用期間を延長する場合があること、およびその事由
  • 本採用を拒否する事由(例:勤務態度が不良であるとき、健康状態から業務に耐えられないとき、等)

これらが明記され、入社時に労働者に周知・明示されていることが大前提となります。

14日以内の解雇と「解雇予告手当」

労働基準法第21条により、試用期間の開始から「14日以内」に解雇する場合に限り、30日前の解雇予告や解雇予告手当の支払いは例外的に不要とされています。

しかし、入社後14日を超えてから解雇(本採用拒否)をする場合は、通常の解雇と同様のルールが適用されます。原則として30日以上前の解雇予告、または不足日数分の解雇予告手当の支払いが必要になります。試用期間の満了日当日に突然「明日から来なくていい」と伝えることは法律違反となりますので、スケジュールの管理には十分ご注意ください。

よくあるご相談

Q. 当初の試用期間内で適性を見極めきれませんでした。試用期間を延長することは可能ですか?

A. 就業規則に規定があり、合理的な理由と本人の同意があれば可能です。 試用期間の延長は労働者の地位を不安定にするため、むやみに行うべきものではないとされています。延長するためには、まず就業規則に「試用期間を延長することがある」旨の規定があることが必要です。 その上で、「もう少し指導期間を設ければ改善が見込める」といった客観的で合理的な理由があり、延長する期間を定めて、労働者本人に丁寧に説明し同意を得ること(同意書への署名など)が実務上で求められます。

まとめ

試用期間は、単なる「お試し期間」や「ふるい落としの期間」ではなく、企業が新たな人材を育成し、労使双方がお互いの理解を深めるための期間です。現場と人事が連携し、手厚いフォローアップ体制を構築することが、結果として早期離職や労務トラブルの防止につながります。 もし、現在対応されている新入社員の状況について少しでも不安がある場合や、本採用の見送りを検討し始めた段階であれば、自己判断でアクションを起こす前に、ぜひお早めに当法人までご相談ください。状況に応じた適切な実務対応や、面談の進め方などを専門家の視点からサポートさせていただきます。

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