社会保険の適用拡大により、令和8年6月現在、厚生年金保険被保険者数が50人を超える事業所では短時間労働者も社会保険に加入しなければなりません。

社会保険の適用拡大は、以下のスケジュールで進行します。

ここでいう「短時間労働者」とは、令和9年10月以降でいえば、週の所定労働時間が20時間以上かつ学生でない労働者を指します(一部例外あり)。つまり、いわゆる「週20時間以上働くパート・アルバイト」が、順次、社会保険の対象に組み込まれていくことになります。

この適用拡大に対する論点はいくつかありますが、今回は労働者が直面する目の前の問題に焦点を当てたいと思います。

手取りが減る?

よく言われるのが、社会保険に加入することによって給与から社会保険料が控除されるため手取りが減るというものです。厚生年金保険に加入するため将来の年金額は増えますが、保険料がかかるため手取りが減ります。会社勤めの配偶者などの扶養の範囲内であればかからなかった健康保険料も控除されます。いいか悪いかをどう感じるかは別として、同じ労働時間であれば確実に手取りは減るのです。

扶養から外れなければいけない?

自身で社会保険に加入すると、これまで会社勤めの配偶者などの扶養だった場合、その扶養から外れることになります。社会保険の適用拡大は労働者が加入するしないを選択できる制度ではなく、要件に該当すれば必ず社会保険に加入する必要があります。自身で社会保険に加入しつつ、配偶者の扶養でいることはできないのです。

扶養から外れれば、配偶者の勤務先から支給されていた「扶養手当」もなくなるケースがあります。将来の年金が増えるというメリットはあるとはいえ、「少しでも家計の足しに」という動機で働いていた労働者にとっては、手取り額の減少は切実な問題です。

「加入を回避したい」という選択肢と、その先

このような背景から、社会保険への加入を回避したいと考える労働者も一定数出てくることが予想されます。
しかし、この社会保険の適用拡大は制度上そうなる話だから、回避のしようがないのでは、と思った方もいるかもしれません。

実は、回避できないわけではありません。

上記で説明した短時間労働者の要件に該当しなければいいのです。
つまり、週所定労働時間が20時間以上、この要件から外れればいいのです。

そう考える労働者はおそらく出てくるでしょうし、我々のような専門家が助言するかもしれません。ただ、ここから先があまり言及されることがありません。

もし回避を選択した労働者がいたとして、具体的には週の所定労働時間を20時間未満とする労働契約に変更する必要があります。これで短時間労働者の要件から外れるわけですから、週の所定労働時間が10時間以上などと制度改正がない限りは社会保険に加入する必要はありません。
見逃せないのは週の所定労働時間を20時間未満に変更する、という部分です。つまり、今までその労働者が担っていた労働時間が宙に浮くのです。

  • 他の労働者に任せよう→引き受けくれる労働者がいるでしょうか?
  • 新しく労働者を雇用しよう→採用費用、育成時間の目処は立っていますか?
  • 効率性を上げて20時間未満でも変わらない成果を→効率性が上がるなら今やればいいのでは?

こういうところで要らぬトラブルが生み出されるのです。

最初は国の制度改正が発端かもしれません。
しかし、加入したいしたくない、そのために労働時間を短縮するしない。その意思決定をするのは労働者であり、その検討を受け止めるのは事業主なのです。

この適用拡大の内容、スケジュールは国民の隅々まで浸透しているというには程遠いのが現状でしょう。直近になってニュースで取り上げられ、そうだったんだ、と知る労働者も多いでしょう。
幸い、次の適用拡大まではまだ1年以上あります。具体的には以下のようなステップで意向確認から始めて、実際に加入したくないという労働者については所定労働時間を短縮する契約変更を検討、準備する時間は十分あります。
「いきなり言われる」のと「前もって準備できる」では、心理的な負担も実務上の対応も大きく変わります。

① 対象となる労働者を把握する(週20時間以上・学生でない等の要件を確認)

② 制度の内容を丁寧に説明し、意向を確認する

③ 加入を希望しない労働者については、所定労働時間の短縮などを含めた選択肢を検討する

④ 人員体制・業務分担の見直しを早めに進める

労働者が制度を正しく理解した上で選択できる環境を整えることが、事業主としての誠実な対応です。制度改正を「降ってきた問題」として受け身で待つのではなく、先手を打って準備を進めることが、職場の安定につながります。

まとめ

社会保険の適用拡大は、働く側にとっては「手取りが減る」「扶養から外れる」という現実的な問題をもたらします。加入要件を回避しようとする労働者が出てくることも想定され、その結果として労働時間の見直しや人員体制の変化が生じるかもしれません。 しかし、この変化に対して事業主が早めに動き出すことで、混乱を最小限に抑えることができます。制度の理解を深め、対象者への説明と意向確認を丁寧に行い、体制の見直しを計画的に進めることが重要です。 社会保険の適用拡大をめぐる手続きや労働契約の変更などについては、社会保険労務士にご相談ください。

【参考】
社会保険適用拡大とは?|社会保険適用拡大特設サイト|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/seido/

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