「従業員を雇う場合、労働基準監督署にサブロク協定書を届け出する必要があると聞きました。そもそも『労使協定』とは何ですか。」

先日、新しく事業を始められたお客様から、このようなご質問をいただきました。労使協定の一つである36(サブロク)協定。こちらについては、その内容をご存知の方も多くいらっしゃることと思います。一方、労使協定そのものについて問われると、いかがでしょうか。

日々の経営や人材育成など重要課題が山積する事業主様にとっては、労働法令にかかる手続・届け出業務は後手になりがちです。しかし、健全な事業経営を進める上で忘れてはならない大切な義務でもあります。特に労使協定は、使用する従業員の労働条件に大きく関わる重要な手続制度となりますので、これらの内容を正しく理解し、事業活動に合わせた適切な運用を行うことが求められます。ご存知でない方はもちろん、ご存知の方にも今一度おさらいをしていただけるよう、本稿では、労務管理を行う上で知っておきたい 労使協定の基本ポイントを解説します。

労使協定とは

労使協定とは、労働者代表と使用者との間で結ばれる、労働条件に関する合意を取り交わした書面契約です。そして、労使双方が労働条件について合意のうえ署名または記名押印した書面そのものを労使協定書といいます。労働基準法では、特定の事項について「労使協定を締結すれば実施できる」と定めており、その場合においては労使協定書という書面で協定を結んだ証を残すことが必要となります。

『労使協定』締結の大きな目的は次の 2 点です。

  1. 労使(労働者と使用者)の話し合いの結果を文書で明確にすること
  2. 法に抵触する法律行為を「適法」とすることができ、「処罰から免れる」こと

一例を挙げます。労働基準法では、原則、使用者が労働者に時間外労働や休日労働を命じることを禁止していますので、使用者が労働者に残業を行わせた場合、法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられる恐れがあります。しかし、労働者と使用者が時間外労働・休日労働に関する協定(いわゆるサブロク協定)を締結した場合には、一定の範囲で時間外労働や休日労働を行わせることが可能となります。労使協定には、「法に抵触する行為を有効とする」「法規制が解除され、法違反の処罰を免れる」という2つの効果があるのです。つまり、労使協定は合意された労働条件を明確にするための書面であると同時に、事業運営に必要な、柔軟な働き方を可能にする手続書類でもあるといえます。

労働者代表

それでは、労使協定を締結する際の労働者代表とは、具体的に誰になるのでしょうか。これについては労働基準法に定めがあります。その事業場に在籍する従業員の過半数が所属する労働組合がある場合は、その「労働組合の代表者」となります。一方、過半数労働組合がない場合においては、「従業員の過半数を代表する者」を選ぶことになります。

ここで注意すべき点があります。「労働者代表」の選出については、決して事業主側が指名したり、関与してはならないということです。あくまでも労働者の間で、投票・挙手・話し合い・持ち回り決議といった民主的な手続により代表者を選出する必要があります。(※管理監督者については、会社に使用される限り「労働者」としてカウントされますが、労働者代表になることはできません。)このルールを守らずに結んだ協定は無効となる可能性があり、会社を守るはずの協定が、逆に法的リスクとなることもあります。

また、労使協定は事業場単位で締結する必要があり、事業場ごとに労働者代表を選任することも必須です。事業場ごとに定められた労働条件はその事業場の全ての労働者に及ぶことも、押さえておきたいポイントです。

労使協定の種類・届け出の有無

労働基準法に規定された労使協定には様々な種類があります。労使協定書の作成のみで法的効力を発するものと、協定内容を労使協定届として労働基準監督署に届け出することをもって、法的効力を発するものとに分けられます。ここでは労使協定の種類と、届け出が必要なもの・不要なものを分類して説明します。

届け出必須の労使協定

  1. 時間外労働・休日労働に関する協定
    ※労働基準法第36条にちなみ、『36(サブロク)協定』ともいわれます。
  2. 1か月単位の変形労働時間制に関する協定
  3. 1年単位の変形労働時間制に関する協定
  4. フレックスタイム制に関する協定
    ※清算期間が1か月を超える場合
  5. 事業場外労働に関する労使協定
    ※協定で定める時間が法定労働時間を超える場合に届出必須
  6. 専門業務型裁量労働制に関する協定

など

これらは労使協定書を労働基準監督署に届け出して初めて法的効力が発生するものであり、届け出を怠ると違法状態と判断される可能性があります。

届け出不要の労使協定

  1. 年次有給休暇の計画的付与に関する協定
  2. 賃金控除(社宅費・食費等)に関する協定
    ※労働基準法第24条にちなみ、『24(ニーヨン)協定』とも呼ばれます
  3. みなし労働時間制(事業場外労働)に関する協定
    ※協定で定める時間が法定労働時間以下である場合は届出不要
  4. フレックスタイム制に関する協定
    ※清算期間が1か月を超える場合
  5. 休憩時間の特例に関する協定
  6. 育児・介護休業法に基づく一部の協定

など

これらは労使協定を締結した時点で法的効力が発生し、労働基準監督署への届け出は不要です。

労使協定締結時の署名または記名押印について

届け出有無にかかわらず、合意書面である労使協定書には、労使の当事者双方が署名または記名押印をすることが必要です。労働者と使用者とが合意の上、真正に協定が成立したことを示すためです。(※2021年4月以降、労使協定届への署名または記名押印は廃止されました。ただし、労基署に届け出する労使協定届が労使協定書を兼ねる書面でもある場合は、労使協定届にも署名または記名押印が必要です。)

労使協定の周知・保存義務

届け出の有無にかかわらず、使用者は『労使協定』の内容を労働者に周知する義務があります。周知方法にも労働基準法に定めがあり、

  • 常時社内の見やすい場所への掲示または備え付け
  • 書面交付
  • 電子データでの共有

上記いずれかの方法で、協定の内容をいつでも自由に確認できる状態にすることが必要です。また、労使協定は労基法第109条の「労働関係に関する重要な書類」に当たるため、一定期間の保存義務があります。協定内容の有効期間が満了する日など、その完結の日から原則5年間(当分の間3年間)は書面または電子データで保存する必要があります。周知・保存を怠ると、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため注意が必要です。

まとめ

労使協定は、労働者と事業主が、互いの立場を理解しながら働き方のルールを明確にする重要な仕組みです。締結や届出をせずに制度運用を行えば、罰則を受けるなど、事業運営に大きなリスクを招く可能性があることをおわかりいただけたのではないかと思います。一方、労使双方の合意を基盤とした適正な締結手続は、労働者にとっては労働条件が透明化されることで不利益な扱いを回避できるという安心感へとつながり、また事業主にとっても、労使トラブルの未然防止や経営の安定に寄与するといった利点もあります。業種や事業の運営により多様な対応が必要となる『労使協定』。御社のご状況にあわせたご相談も承っております。お気軽にお声がけください。

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