2026年4月から実施が予定されている在職老齢年金制度の改正は、高齢者の働き方や企業の人材戦略に大きな影響を与える重要な制度変更です。高齢化が進む日本社会において、年金と就労のバランスをどのように図るかは、社会全体にとっての重要な課題といえます。今回は、この改正の内容とその背景、そして高齢者や企業にとっての影響について解説します。

在職老齢年金とは?

 在職老齢年金とは、老齢厚生年金の受給権を有する高齢者が、厚生年金保険の適用事業所で働きながら年金を受け取る際に適用される制度です。「老齢厚生年金の月額」と賃金および賞与を月額換算した「総報酬月額相当額」の合計が「支給停止基準額」を超える場合、その超過分の1/2に相当する額が老齢厚生年金から支給停止されます。
 
 この制度は、現役並みの収入がある高齢者に対して老齢厚生年金の支給を一部または全部停止することで、公的年金財政の均衡を図ることを目的として導入されたものです。一方で、「働くと年金が減るのであれば、あまり働かない方が得なのではないか」と考える人も少なくなく、高齢者の就労意欲を下げる要因の一つと指摘されてきました。

 ※在職老齢年金による支給停止の対象となるのは老齢厚生年金のみであり、老齢基礎年金については在職中であっても支給停止の対象外です。

2026年4月からの改正内容

 今回の改正では、支給停止基準額が以下のように引き上げられます。

    現行(2026年3月まで) : 月額51万円
   改正後(2026年4月から) : 月額62万円

 たとえば、賃金が46万円、老齢厚生年金が10万円の場合、合計56万円となります。現行制度では支給停止基準額である51万を5万円超過しますので、超過額の半額の2万5千円の年金が支給停止となります。しかし、改正後は支給停止基準額が62万円に引き上げられるため、同じ収入でも年金は全額支給されることになります。これは高齢者にとって大きなメリットです。 

改正の背景と目的

この制度改正の背景には、以下のような社会的課題があります。

高齢化と労働力不足の深刻化

 日本は世界有数の高齢社会であり、65歳以上の人口は全体の約3割に達しています。一方で、少子化の影響により生産年齢人口は減少しており、多くの企業が深刻な人手不足に直面しています。高齢者の就労を促進することは、将来の労働力を確保するとともに、公的年金をはじめとする社会保障制度の持続可能性を高めるうえでも重要な鍵となります。

高齢者の就労意欲の高まり

 医療の進歩や健康意識の向上により、元気に働き続けられる高齢者が増えています。厚生労働省の調査によると、65~69歳の約6割が「66歳以降も働きたい」と回答しており、3割以上が「年金が減らないように働き方を調整している」との結果も示されています。こうした就労意欲と現行制度とのミスマッチを踏まえ、高齢者が安心して働き続けられる環境を整備する観点から、在職老齢年金制度の見直しが求められてきました。 

改正による影響とメリット

 この改正により、以下のようなメリットが期待されます。

高齢者にとってのメリット

  1. 年金を減額されることなく働ける範囲が広がり、収入の増加が見込める
  2. 働くことによる経済的メリットが明確になり、就労意欲が向上
  3. 社会参加の機会が増え、生活の質(QOL)の向上にもつながる

企業にとってのメリット

  1. 経験豊富な高齢者の雇用継続がしやすくなり、即戦力として活用できる
  2. 慢性的な人手不足の解消に貢献
  3. 高齢者のモチベーション向上により、職場全体の生産性や士気の向上が期待できる

注意点と今後の対応

 ただし、制度の仕組み自体がなくなるわけではなく、基準額を超えた場合には引き続き年金の一部が支給停止となります。また、支給停止基準額は今後の経済状況や物価動向に応じて見直される可能性があるため、常に最新情報を確認することが重要です。企業の人事担当者や労務管理者は、以下のような対応が求められます。

  • 制度改正の内容を正確に把握し、社内での周知を徹底する
  • 高齢従業員の就労希望やライフプランをヒアリングし、柔軟な働き方を提案
  • 年金と賃金のバランスを考慮した労務管理の見直し
  • 必要に応じて就業規則や賃金規程の改定を検討する

まとめ

 2026年4月からの在職老齢年金制度の改正は、高齢者がより自由に働ける環境を整えるうえで、大きな一歩といえます。高齢者の就労促進と年金制度の持続可能性を両立させるためには、制度への正しい理解と柔軟な対応が求められます。高齢者がこれまで培ってきた経験や知識を活かし、社会に貢献し続けられるような仕組みづくりは、これからの日本にとって一層重要になっていくでしょう。

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