はじめに
コンパッソ社会保険労務士法人には、TKC経営労務協会という名称で、いわゆる「労働保険事務組合」が併設されていますが、皆様は「労働保険事務組合」のことをご存知でしょうか?
労働保険事務組合とは、厚生労働省の認可のもと、中小事業主に代わって、労働保険(労災保険・雇用保険)の事務手続きを行うことができる団体のことです。加入者(中小事業主等)からの委託に基づき、事業所の労働保険加入・脱退手続きや、従業員の資格取得・喪失手続き、そして労働保険料の申告・納付に関する手続きを行うのが主な業務ですが、その他、下半期からこの時期にかけては、厚生労働省からの指示のもと「労働保険未手続事業一掃業務」といったものにも取り組んでおります。
「労働保険未手続事業一掃業務」を分かりやすく説明すると、「本来労働保険に加入すべきだが手続きが取られていない事業所に、労働保険の加入勧奨を行う」活動です。
1.労働保険に加入しなければいけない条件とは?
労働保険は労災保険および雇用保険の2つで成り立っており、労災保険は労働者の通勤・業務災害の補償、雇用保険は労働者が事業所を退職した際の失業手当の給付等の機能を持っています。加入対象となる労働者の条件は労災保険と雇用保険で異なっており、以下の通りです。
労災保険・・・全ての労働者が対象 (※パート/アルバイト等の名称によらない)
雇用保険・・・雇用期間が31日以上かつ週の所定労働時間が20時間以上の労働者
それぞれ該当する労働者が生じる場合、労災保険は「保険関係成立届」を、雇用保険はさらに「雇用保険適用事業所設置届」を提出し、事業所としての労災保険や雇用保険の加入手続きをすることが必要になります。
特に労災保険は、「○日以上使用/○時間以上労働」といった勤務に関する条件の限定が無く、たった1日でも(あるいは1時間でも1分でも)労働者を使用することになれば、事業所としての労災保険の加入手続きをしなければならないので注意が必要です。
2.親族でも労働者になる?
さて以前のコラムでも「“労働者”とは誰を指すのか?」(https://compasso-sr.jp/column/471/)というテーマを取り上げていますが、労働基準法において「労働者」とは、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」とされています。
ただし同法では、同居の親族のみを使用する事業については適用しない、とも定めており(労働基準法第116条2項)、いわゆる家族経営の事業については、労働関係として取り扱うのに馴染まないため、労働者としての取り扱いは不要、とされています。当然これは裏を返すと、別居の親族が働いている場合には、労働保険の手続きが必要になるということですので、この点にも注意が必要です。
※同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業で①事業主の指揮命令に従っていること②就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること、という要件を満たす場合には、同居の親族も労働者として取り扱われ、労働基準法が適用されます。
3.労災保険未加入のリスク
それでは労働保険、特にそのうち労災保険に加入すべきであるのに、手続きをしていなかった際にはどのようなリスクがあるのでしょうか?
一番重いケース、例えば行政機関等から労働保険の手続きに関する指導を受けたり、あるいは我々のような事務組合から加入勧奨を受けたにもかかわらず、10日以内に「保険関係成立届」を提出していなかった場合には、事業主が「故意に」手続きを怠ったとみなされ、労災事故が起こった場合の保険給付について、その費用を事業主から100%徴収する、ということが法律上定められています(労働者災害補償保険法31条)。
例えば「数ヶ月間雇うだけだし、今まで事故もなかったから大丈夫だろう」と考えた事業主が、上記の指導や勧奨を無視し、手続きを取っていなかった間に、従業員が労災事故により死亡してしまったとしましょう。労災保険には遺族に、遺族補償一時金として1,000日分の給料に相当する金額を支給する制度があります。もし、従業員の1日あたりの賃金(給付基礎日額)が1万円だった場合には、遺族補償一時金は1,000万円に上りますが、「故意に」手続きを怠ったとみなされる事業主は、この1,000万円をそっくりそのまま負担しなければならないのです。
事業主の中には、「保険料を削減したい」という理由で手続きを取っていないこともああります。ですが事業主が負担する労働保険料は、一般の事業であれば労働者の賃金に対し、労災保険料率3/1,000、雇用保険料率9/1,000(令和7年度時点)を掛けた金額で、比較的少額です。(月給がちょうど30万円の従業員であれば、月の事業主負担は労災保険料が900円、雇用保険料が2,700円の、合計3,600円となります。)この保険料を節約するために労働保険の手続きをしない、ということは大変リスクの高い行動だと、言えるのではないでしょうか?
※労災保険の成立手続きを行うよう指導を受けた事実はない場合でも、手続をすべきときから1年を経過してもなお、手続きが取られていない場合には「重大な過失」と認定され、保険給付額の40%が費用徴収されます。
※費用徴収の対象は、療養後3年間に支給されるものに限ります。また療養(補償)等給付、介護(補償)等給付、及び二次健康診断等給付は除かれます。
4.労災保険加入および事務委託のメリット
労災保険は、労働者の補償という側面はもちろんのこと、事業主に突如降りかかる金銭的負担を防ぐ効果もあるわけですが、その他にも、労働保険事務組合に事務処理を委託するという条件のもと、常時使用する労働者数が下の表に該当する場合には、本来、労災保険に加入することが出来ない事業主や家族従事者も、労災保険に特別に加入することが可能です。

※1つの企業に工場や支店などがいくつかあるときには、それぞれに使用される労働者数を合計して判断します。
※労働者を通年使用しない場合でも、1年間に100日以上労働者を使用している場合には、常時労働者を使用しているものとして取り扱います。
労災保険の特別加入制度は、事業主といえど、労働者と同様の業務に従事しているような場合には、労働者に準じて保護すべき、という考えのもと成り立っている制度のため、事業主としての業務に伴う事故は補償されない、という点には注意ですが、それを除けば労働者と同じように、労災病院で自己負担なくケガや病気の治療を受けたり、休業補償を受けることが可能です。(「労災保険の特別加入制度」https://compasso-sr.jp/column/251/)
中小事業主の他、労働者を使用しないいわゆる一人親方の特別加入を請け負う団体も設置しておりますので、ご興味ある方は、是非、お電話やお問い合わせフォームからご連絡ください。