― 解雇をめぐる「制度」と「現実」―

労働契約の終了にはさまざまな形がありますが、大きく分けると「会社側から労働契約を終了させる場合」と「労働者側から終了させる場合」の2つに分類されます。

なかでも、会社側から労働契約を終了させる、いわゆる「解雇」は、経営者や人事担当者にとって非常に悩ましいテーマです。

「このまま雇い続けるのは難しい」「正直、やめてもらいたい」

そう感じた経験のある経営者の方も、決して少なくないのではないでしょうか。

しかし、日本の労働法制において、会社側からの解雇は容易には認められていません。本記事では、解雇の“手続き”と“実際に有効と認められるかどうか”の違いに焦点を当てながら、解雇をめぐる考え方について整理していきます。

解雇に関する法律上の「手続き」

労働基準法において、解雇について主に規定されているのは第19条と第20条です。

第19条:解雇制限(解雇してはならない期間)

第20条:解雇予告(または解雇予告手当)

第20条では、原則として解雇日の30日前までに解雇予告を行うこと、もしくは30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払うことが会社側に義務付けられています。

形式的な手続きだけを見れば、会社が行うべきことは非常にシンプルです。

極端に言えば、「解雇予告を行えば、手続き上は解雇できてしまう」ともいえます。

しかし、ここで多くの方が誤解しがちなのが、「手続きができる=解雇が有効である」という認識です。

実は、解雇にはもう一つ、極めて重要な要素があります。

解雇には「理由」が求められる

解雇が法的に有効とされるためには、労働契約法第16条に基づき、

客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であること

が必要とされています。

つまり、どれだけ手続きが整っていても、この要件を満たさなければ、その解雇は無効と判断される可能性があります。

たとえば、遅刻が多い労働者に対して、これまで特段の注意や指導を行わず、ある日突然「改善が見られないから解雇する」とした場合、この解雇が有効と判断される可能性は極めて低いでしょう。

誤解を恐れずに言えば、その理由で「解雇」という結果は重すぎる、という評価になる可能性が高いのです。

会社側の「もう限界だ」「影響が大きすぎる」という感情は理解できますが、それと法的に解雇が認められるかどうかは別問題なのです。

解雇は「いきなり」では認められにくい

「では、勤務態度が明らかに悪く、改善も見られない場合でも解雇できないのか」

このような疑問を持たれる方もいるでしょう。

結論から言えば、必ずしも解雇できないわけではありません。

問題なのは、「いきなり解雇」という選択を取ることです。

一般的に、解雇が有効と判断されやすいケースでは、以下のような段階的な対応が取られています。

一般的な「解雇までの道筋」

  1. 就業規則上の服務規定等に違反する行為が認められる
  2. 事実確認を行い、注意・指導や配置転換等により改善を促す
  3. それでも改善が見られない状況が継続する
  4. 就業規則に基づき、戒告・減給など軽い懲戒処分から順に実施する
  5. それでも改善されない場合、最終手段として解雇を検討する

重要なのは、会社が雇用を継続するためにできる限りのことを行ったかどうか、そしてその経緯が記録として残っているかという点です。

これらの積み重ねがあって初めて、「解雇せざるを得なかった」と評価され、客観的合理性が認められやすくなります。

手続きと結果はイコールではない

ここまでの内容を整理すると、次のようになります。

  • 解雇の「手続き」自体は比較的シンプルである
  • しかし、解雇が有効とされるには合理的かつ相当な理由が必要
  • その理由は、日常的な注意・指導の積み重ねによって形成される

正直なところ、解雇の方法を説明すること自体、あまり気持ちの良いものではありません。

しかし、事業経営において、解雇を検討せざるを得ない場面が生じる可能性があるのも事実です。

知識として理解しておくこと自体は、決して無駄ではありません。

ただし、本記事の本旨は「どうすれば解雇できるか」をお伝えすることではありません。

解雇に「正解」は存在しない

私たち社会保険労務士には、「どうしたら解雇できますか」という相談が少なからず寄せられます。

その際、法制度や実務上の考え方をお伝えすることはありますが、それが必ずしも“問題の解決”になっているとは限りません。

労働者にとって解雇は生活に直結する重大な問題であり、司法判断もその前提に立っています。

労働法制は、会社側に対して「極力、解雇を回避する努力を求める」構造になっていると考えるべきでしょう。

残念ながら、「これさえやれば問題なく解雇できる」という魔法のような手続きは存在しません。

専門家が提供できるのは、法的な考え方や過去の事例までであり、最終的な判断を下すのは会社・事業主自身です。

解雇に至る前に、できることはなかったか

解雇の手続き自体は、形式上は簡単にできるかもしれません。

しかし、その手続きを取らざるを得ない状況に至る前に、

本当に他に打てる手はなかったのか、という視点を持つことが、労務管理においては何より重要です。

日頃からの指導、評価、コミュニケーションの積み重ねがなければ、解雇という判断は、結果として新たなトラブルを生む可能性もあります。

解雇を「手続きの問題」として捉えるのではなく、「組織運営・人事管理の結果」として捉えることが、長期的には企業にとっても重要なのではないでしょうか。

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