はじめに
高齢者人口の増加とともに、要支援・要介護認定者は増加しており、今後もこの傾向は続くことが見込まれます。介護者は働き盛りで企業の中核を担う労働者であることが多く、管理職や職責の重い仕事に従事する方も少なくありません。介護により仕事と介護の両立が困難となり「介護離職」という社会的問題が発生しています。では私たち企業、労働者はこの問題に対してどのようなことをしていったら良いでしょか。
要支援・要介護状態とは
要支援・要介護状態とは、厚生労働省が認定基準を定めており、要支援1~2、要介護1~5(数字が大きいほど重い)に区分されています。どの程度の状態で認定を受けることができるかご存じでしょうか。例えば要介護1とは、入浴、排泄、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、常時介護を要すると見込まれる状態を言い、身体能力や思考力の低下がみられるものの、基本的に日常生活は自分で送ることが出来るといったレベルになります。介護認定というと難易度が高いと感じますが、思ったほどではないと感じられるのではないでしょうか。
介護離職の理由
主な理由は以下の通りです。
- 勤務先の会社に制度が整備されていなかった。(制度が利用しづらい環境を含む)
- 介護サービスを利用出来なかった。(利用方法が分からなかったことを含む)
- 労働者自身が介護で精神を病んでしまった。
- 介護に専念したかった。(他の家族の要望を含む)
介護離職発生の根本的原因
育児に関する休業等の取得率は上昇傾向にありますが、介護に関する休業等の取得は進みにくいのは何故でしょうか。育児と介護を比較してみました。
- 時期 育児は予定日あり、介護は突然
- 期間 育児は子供の年齢で決まる、介護は未定
- 相談のしやすさ 育児はしやすい、介護はしにくい
- 心情 育児は希望、介護は不安や心配
以上の比較からわかるように準備不足、精神面での不安が大きな原因と言えます。
介護に備える
では、突然訪れる介護に備えてどのような準備をすればよいでしょうか。
親(家族)と常日頃から向き合う
親の趣味、嗜好、生活パターン、交友関係、重要書類の保管場所を知っていますか?また、誰に介護をして欲しいか、施設に入りたいかなど話しておきましょう。それに加え、介護状態の早期発見となるよう体調を十分に観察しておきましょう。
勤務先の介護休業に関する規程や国の制度を理解しておく
企業は介護休業に関する規程を整備、周知しておく
介護をすることになったら
地域包括支援センターに相談
家族が要介護状態になったら初動が肝心です。どうしたらよいか分からない人は多いのではないでしょうか。入院した場合などは病院で相談することも出来ますが、最初に「地域包括支援センター」に相談しましょう。ケアマネージャー・介護支援専門員と呼ばれる専門家がケアプランの作成やサービス事業者との調整を行ってくれるので、仕事を続けられる体制を整える期間が出来ます。
会社の制度を利用する
人事部に相談し状況に応じた各種申請をしましょう。
育児・介護休業法で企業に義務付けられた制度
介護休業
対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。
介護休暇
介護や通院の付き添いなど、介護サービスの手続き、ケアマネージャーとの打ち合わせなどを行うために、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで1日または時間単位で休暇を取得出来ます。
短時間勤務等の措置
企業は利用開始日から3年以上の期間で、2回以上利用可能な措置を以下から選択して講じなければいけません。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- 時差出勤の制度
- 介護費用の助成措置
所定外労働の制限(残業免除)
介護が終了するまで、残業を制限することができます。
時間外労働の制限
介護が終了するまで、1ヶ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を制限することが出来ます。
深夜業の制限
介護が終了するまで午後10時から午前5時までの労働を制限することができます。
個別周知・意向確認
介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、面談や書面交付等による介護休業や両立支援制度等に関する個別周知・意向確認が義務付けられています。
介護に直面する前の情報提供
介護に直面する前の早い段階(40歳等)での介護休業や両立支援制度等に関する情報提供が義務付けられています。
雇用環境の整備
仕事と介護の両立支援制度を利用しやすくするため、次のいずれかの措置を講ずることが義務付けられています。
- 研修の実施
- 相談窓口の設置
- 事例の収集・提供
- 介護休業や両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
テレワークの選択
要介護状態の対象家族を介護する労働者が、テレワークを選択できるよう努力義務化されています。
おわりに
企業及び労働者は突然訪れる介護に準備をしておく重要性をご理解いただけましたでしょうか。人手不足の世の中での離職は労使双方にダメージが大きいものです。改めて現状を直視し見直しをしておきましょう。