ハラスメントはなぜ起きるのか
職場において行われるハラスメントで代表的なものといえば、パワハラ(パワーハラスメント)やセクハラ(セクシャルハラスメント)が挙げられます。どちらも皆さん聞いたことがあるかと思いますし、なんとなく言葉の意味も理解されているのかと思います。
ハラスメントについては以前、こちらの記事でも取り上げましたが、ハラスメントと言われたらハラスメントになる?経営者が押さえるべきハラスメントのポイント|コンパッソ社会保険労務士法人例えばパワハラで言うと、殴る・蹴るといった暴行や、「バカ」・「死ね」といった暴言はもちろんのこと、無理な要求を押し付けたり、無視したりすることもパワハラに当たります。またセクハラで言うと、不必要に身体を触るのは論外ですし、性的な冗談・からかい、執拗にデートに誘うなども含まれます。
ただ、こういった行為がハラスメントに当たるということをわざわざここで説明する必要もなく、すでに周知の事実と言っても良いのではないでしょうか。おそらくほとんどの人が認識しているはずです。
ではなぜ職場からハラスメント行為がなくならないのでしょうか。パワハラやセクハラ以外にも職場ではいろんなハラスメントが存在しています。これらの根底にあるものは何なのでしょうか。思うに、最初はハラスメントとは言えないようなちょっとしたことから始まり、それが受け入れられていると感じたり、習慣化していくことで次第にエスカレートし、ついにはハラスメント行為にいたってしまうのではないでしょうか。
そこで今回はハラスメントを生み出さないために参考になる、3つのポイントをご紹介いたします。
アンコンシャスバイアス
アンコンシャスは無意識、バイアスは偏見・先入観を意味する言葉で、あわせて「無意識の偏見・思い込み」という意味になります。例えば「将来の夢は野球選手です」という言葉を目にしたとき、大抵は少年の姿をイメージするのではないでしょうか。これは別に女の子でも、成人男性でも良いはずです。こういったバイアスは、これまでの経験や見聞きしてきたことから生み出されるため、誰でも自然に持っているものです。なのでこれ自体が悪いということではありません。しかし気をつけないと、知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまったり誤った判断をしてしまう可能性があります。
■性別によるバイアス
- 組織のリーダーは男性が向いている
- 受付やお茶出しは女性の仕事だ
■年齢や年代によるバイアス
- 高齢者は頭が固い
- 若者は新しい技術に詳しい
■仕事によるバイアス
- 低賃金で働く人は学歴が低い
- パートタイマーで働く主婦の家庭は経済的に苦しい
これらはある面では当てはまっているのかもしれませんし、実際にこういった実態もあるが故に一定の納得感があり、腑に落ちやすいという特徴があるように思います。こうして一度自分の中で消化した考えは、繰り返される度に「やっぱり自分が思っていた通りだ」となり、いつしか「それが当たり前」になっていく傾向があります。
しかし、こういった「当たり前」は正しいと言えるのでしょうか。
「・・・べき」や「普通は・・・」に注意する
自分にとって当たり前だと思っているようなことであっても、他の誰かにとっては当たり前ではないかもしれません。人はそれぞれ育ってきた環境や時代が違うのですから、価値観や考え方も違っているのが自然です。それなのについ「・・・べき」や「普通は・・・」というように考えてしまう人は、自分がアンコンシャスバイアスにとらわれていないか思い返してみてください。
哲学者の父と言われるソクラテスは「無知の知」という考えを基本としたそうです。「自分が無知であることを知る」ということで、自分がいかにわかっていないかを自覚することで視野を広く持ち、自分の考えに固執せず、他の考えを受け入れたり理解したりする考え方です。「自分の考えが正しいとは限らない」ということに通ずる点がありますよね。
心理的安全性
組織の中で自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できる状態の度合いのことです。チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態は心理的安全性が高いと言えます。
例えば会議においては意見が対立することもありますし、まるで無関係に思えるようなアイデアを言い出す人もいます。これをオープンな話し合いにより、メンバー同士で真剣に、協力的に解決したりするような姿勢があると、「ここでは安心して意見を言える」という心理から、より積極的かつ自由な発想の意見が生まれ、会議が活発に進められていきます。
一方、自分の意見やアイデアを発言したときに、一方的に否定されたり、馬鹿にされたり、無視されたりしたらどうでしょう。もう発言しようとは思わなくなりますよね。その会議中だけでなく、その後の会議も、そして会議以外の場でもです。これは心理的安全性が低い状態と言えます。きっとその人は自分が会社にいる意味を感じられなくなってしまうのではないでしょうか。
もちろん、会社での存在意義など考えず、与えられた仕事を淡々とこなしキチンと給与が支払われていればよい、という考えもあるでしょう。しかし、心理的安全性が低い職場とハラスメントが起きやすい職場の特徴は似ているのです。
心理的安全性が低い職場の特徴
- 厳しい上下関係、年功序列
- 上司が部下の意見を真に受けない
- コミュニケ-ションが不足している
- 自分の役割を認識できない
- 成果重視で失敗を許容しない など
どうでしょう。いかにもハラスメントが起きそうな気がしませんか。ただ、裏を返せば心理的安全性が高ければハラスメントも起きにくいとも言えるのではないでしょうか。そこで、心理的安全性を高めるための取り組みをいくつか挙げますので参考にしてみてください。
心理的安全性を高める取り組みの例
- リーダーが心理的安全性の重要性を認識し、率先してモデルとして行動する
- ポジティブな言葉を使い、相手を尊重して建設的な話し合いをする。
- 助け合いの精神。失敗を個人の責任にせずチームの問題ととらえ、次に活かす。
- 一人ひとりの個性を受け入れ、違いを否定するのではなく、強みを活かす体制にする。
アンガーマネジメント
アンガー(怒り)やイライラした感情を適切にコントロールするためのスキルです。近年、テレビなどで取り上げられることもあるので耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。
アンガーマネジメントは「怒らないこと」や「怒りを消す」ということを目指すものではありません。怒りの感情は誰にでも起きるものですし簡単に消せるものでもありません。ただ、強い怒り(特に反射的な感情)はときに人の意思決定や行動を大きく左右することがあります。そして自分でも思ってもみなかったような、全く望んでいなかった結果につながってしまうことも少なくありません。周囲だけでなく自分自身を傷つけてしまう可能性もあるのです。
そこで、怒りの感情との上手な付き合い方を学び、自分と周囲との人間関係をより良くするための心理トレーニングがアンガーマネジメントなのです。
アンガーマネジメントの方法
■6秒ルール
瞬間的な感情が起きてから理性が働くまでに6秒かかると言われています。イラッときたらまずは頭の中で6秒間数え、反射的な行動を防ぎます。
■大きく深呼吸
深呼吸には自律神経を整え、興奮を抑えリラックスさせる効果が期待できます。イラッときたら大きく深呼吸。6秒以上かけて行うとより効果がありそうですね。
■物理的に距離を置く
その場から離れ、別の環境に身を置くことで冷静さを取り戻します。相手がいる場合は相手が目に入らない場所に行くと良いです。
■相手の立場になって考える
イラッとしたその瞬間は難しいですが、後から振り返って、相手の意図や状況などを理解することで、怒りの感情を和らげます。
まとめ
3つのポイントを紹介してきましたが、それぞれに共通する部分があることに気づきましたでしょうか。 それは相手を尊重するという姿勢や考え方です。 会社ではいろいろな人が一緒になって働いています。年齢・性別・地位・境遇・国籍などそれぞれに違いがある人達が集まっているのですから、そもそもハラスメントが生まれやすい環境なのかもしれません。しかしだからこそ相手を思いやる気持ちが大事なのでしょうし、それが一人だけの行動ではなく職場全体に広がることでより大きな効果を生むことになるのだと思います。 この記事を参考に、世の中からひとつでもハラスメントがなくなれば幸いです。